委譲と伴走で自律的な組織を作る!デリゲーションボードとラーニングゾーン
「委譲と伴走」とは何でしょうか?
Anycloudでは行動指針に「委譲と伴走」について記しており、主に成長支援の文脈で以下のように書いています。
〈委譲と伴走による資産〉
- みんながラーニングゾーンにいられること
- 委譲して誰かの成長機会を作れること
- 伴走してパニックゾーンにいかないように調整できること
これはAnycloudが成長し続ける組織であるために大切にしたいと思っています。
一方で委譲と伴走は、プロジェクトマネジメントとして必要なことでもあります。
エンジニア組織論への招待では、以下のような記述があります。
1人が考えて、多数の人が実行するという組織の情報処理能力には、限界があります。その1人の考えの中にないことは一切実行されないからです。組織の情報処理能力を上げるためには、組織の人数に応じて、適切に権限の委譲を行う必要があります。
- エンジニア組織論への招待 ~不確実性に向き合う思考と組織のリファクタリング
実際に現場で「委譲と伴走」を考えるときは、相手の成長の観点と、プロジェクトマネジメントの観点の両方を持つ必要があると思っています。
今回は、委譲と伴走における参考になりそうな方法論や考え方をまとめます。
※ 以下、委譲と伴走や1on1は、必ずしも上司 ⇔ 部下の関係で起きるわけではないですが、わかりやすくするために、便宜的に上司と部下という表現をします。
参考文献
デリゲーションボードで権限と責任を可視化する
委譲する場合には、権限と責任の期待値を揃えることが必要です。
「今回Aさんにプロジェクトマネジメントをお願いするね」というだけでは正しく委譲できません。
「プロジェクトマネジメント」の中に、どういう仕事(What)が含まれていて、どういう役割(How)をこなせばいいのか、上司と部下の間で、認識が”たまたま”揃うことは珍しいでしょう。
具体的な権限や責任の期待値を1on1などで話し合い、お互い認識を揃えることが必要です。
さらにいえば、それを可視化して、残しておくとなおよいでしょう。
そのために有用なツールがデリゲーションボードです。
デリゲーションボードの使い方
デリゲーションボードでは具体的な仕事について、上司から部下への委譲レベルを7段階で決めます。
よく一次元的に1~7の段階が描かれることが多いですが、実際には4を中心として、1~3と、5~7は対照になっているので、右の図のような模式図がわかりやすいのではないかと思っています。
青のラインであれば意思決定の主体が上司であり、赤いラインであれば意思決定の主体が部下となります。ラインの上の方にある場合(1や7)は意思決定者が独立して決めることができ、下にいくと相手に相談する度合いが増します。
デリゲーションの段階
- 指示する
- 上司が決定して、部下に指示をする。
- 説明する
- 上司は決定したことを部下に説明して納得感を得る。
- 相談する
- 部下に相談した上で、上司が決定する。
- 一緒に決める
- 上司と部下が一緒に決める。
- 助言する
- 上司は助言を行い、部下が決める。
- 説明を求める
- 部下が決めた上で、上司に説明をする(上司が説明を求める)
- 委任する
- 部下が決定して実行する(上司は何も影響を与えない)
※ デリゲーションボードで一般的に使われる日本語訳はややわかりにくいと感じているため、筆者が適宜変えています。
参考文献
権限委譲で自己組織化を促す!デリゲーションポーカー×実践的ワークショップのススメ
わかりやすい記事だったので、参考にさせていただきました。
成長のフレームワーク
Anycloudの行動指針にも記述があるラーニングゾーンやパニックゾーンとは、以下の成長のフレームワークの用語を基にしています。
これは、Learning Zone Modelといって、レフ・ヴィゴツキーという、発達心理学や教育心理学などに多大な影響を与えた心理学者が打ち出したフレームワークです。
とてもシンプルですが、考え方としては非常に強力です。
上司は、極力、部下が少し背伸びする必要のある役割を与えましょう(成長観点での委譲)。ラーニングゾーンにいることで、部下は最も成長することができます。
また、自分自身を振り返ったときに、いまやっている仕事が、慣れ親しんだComfortなものばかりなのであれば、誰かへ委譲したり、もっとチャレンジな仕事に挑戦できないか、上司などに相談すると良いでしょう。
参考文献
成長のフレームワーク:3つのゾーン(コンフォートゾーン、ラーニングゾーン、パニックゾーン)
伴走で大切なこと
背伸びすることは大事ですが、未知のことがありすぎて、右も左も全く検討がつかない、五里霧中みたいな状態になると、人はパニックに陥ります(パニックゾーン)。
パニックになると、思考力が低下します。思考力が低下すると、**周りにどう相談していいかもわからなくなります。**そこから進めなくなり、生産性はガタ落ちします。
ラーニングゾーンとパニックゾーンはときに紙一重です。
委譲するときに最も意識すべきは、部下がパニックゾーンにいかないように見張ってあげることです。これこそが、伴走の基本スタイルだと考えています。
部下がパニックゾーンに入りこんでしまった場合は、基本的に巻き取ったほうが良いでしょう。一旦できることを任せて、リズムを立て直してあげることが大事です。
ラーニングゾーンにいて生みの苦しみを感じながらも前向きにがんばれているのか、それともパニックゾーンに入ってしまっているのか。ここの見極めが大切です。
1on1の姿勢
そういった見極めのためにも、1on1で、部下の話に傾聴する、という姿勢はとても大切です。
上司からしたら「慣れた仕事」なので、部下の話も聞かずにフィードバックをどんどんしてしまうことがあります。
しかし、部下にとってはわからないことだらけで、パニック状態になっているかもしれません。そんなときに、フィードバックを滔々と受けても、処理しきれないことがあります。
「フィードバックすることが伴走」では必ずしもない、ということです。
最悪なのは、信頼関係がうまく構築できておらず、部下が本当はフィードバックをちゃんと理解できていないのに、理解しました、といって、そのままPanicの渦に戻っていってしまうことです。
まずはオープンに、いま何に困っているのか、課題に感じていることはあるか、といったことを問いかけ、傾聴する。そういう姿勢が上司には必要です。
1on1で成長を促す
部下が、ラーニングゾーンにいそうだ、とわかれば、コーチング、フィードバック、ティーチングを使い分けて、さらに成長を促しましょう。
ここについては、いずれ別の記事にまとめたいと思います。
参考文献