オープンソースCRM「Twenty」はSalesforceを代替できるのか

村井 謙太

代表取締役

村井 謙太

オープンソースCRM「Twenty」はSalesforceを代替できるのか

オープンソースCRM「Twenty」について、これまでローカル開発環境の構築アーキテクチャのコードリーディングを書いてきました。中身を見たあとに気になるのは、「で、実務でSalesforceの代わりになるのか」です。

この記事では、公式ドキュメント・料金ページ・GitHubのissue・コミュニティの声を突き合わせて、機能・価格・移行コストの3軸で調べた結果をまとめます。あわせて、CRMの代用としてよく使われるNotionでは何ができないのかも整理します。

結論を先に書くと、答えは「どのSalesforceを使っているか」で変わります。Starter相当の基本的な営業管理ならTwentyは現実的な選択肢ですが、見積や売上予測まで使い込んでいるチームには時期尚早でした。

Twentyの現在地

Twentyを開発しているのはY Combinator S23出身のTwenty.com PBCで、開発チームの実体はパリにあります。調達は2024年11月までの2ラウンドで累計$5Mチームは17名前後の、まだシード段階のスタートアップです。

一方で開発ペースは驚くほど速く、2026年7月時点の最新版はv2.20.0、ほぼ週次でマイナーバージョンが出ています。GitHubのスターは約5万で、OSSのCRMとしてはトップクラスの活発さです。

ライセンスは本体がAGPLv3、ee/配下のSSO・高度な権限管理などは商用ライセンスというオープンコア構成です。クラウド版はPro $9、Organization $19(ともにユーザーあたり月額・年払い)で、セルフホストなら無料で使えます。

Twentyの料金ページ。Pro $9とOrganization $19の2プラン

気になる点もあります。B2Bソフトウェア購買の定番レビューサイトであるG2やCapterraにレビューページ自体が存在せず、「Salesforceから移行して1年運用した」といった検証可能な第三者の事例も見つかりませんでした。プロダクトの勢いに対して、B2B購買の実績蓄積はこれからです。

機能を比べる — あるもの・ないもの

Salesforce Sales Cloudとの比較で、Twentyに「あるもの」と「ないもの」を分けると次のようになります。

領域TwentySalesforce
パイプライン・商談管理○ カンバン・カスタムオブジェクト
メール/カレンダー統合○ Gmail / Microsoft 365 / IMAP
ワークフロー自動化○ ノーコードビルダー○ Flow(より深い)
権限・ロール○ カスタムロール+フィールド単位
レポート/ダッシュボード△ ベータ(opt-in)
売上予測×
見積(CPQ)×
承認プロセス×
モバイルアプリ×(公式なし)
コンプライアンス認証×(SOC 2は取得中)
連携エコシステム△ SDKが出たばかり○ AppExchange

「あるもの」側は思ったより揃っています。メール/カレンダー統合はGoogle・Microsoftアカウントを接続するとメールや予定が顧客レコードに自動で紐づく方式で、IMAP/SMTP/CalDAVにも対応しています。ワークフローもレコード作成・更新やWebhookをトリガーに、HTTPリクエスト・コード実行・AIエージェントまでアクションに組めます。

「ないもの」側ははっきりしています。売上予測・見積・承認プロセス・公式モバイルアプリは存在せず、リリースノートやロードマップにも見当たりません。レポート/ダッシュボードは2025年11月に入ったばかりのベータ機能で、Early Accessを有効にしないと使えません

つまり「営業活動の記録と管理」は一通りできて、「営業のマネジメントと商流」がまだ無い、という分布です。

価格で比べる

日本のSalesforce公式価格と並べると、構図が見えてきます。

プラン月額/ユーザー
Twenty セルフホスト0円
Twenty Cloud Pro$9(約1,300円)
Twenty Cloud Organization$19(約2,800円)
Salesforce Free Suite0円(2ユーザーまで)
Salesforce Starter Suite3,000円
Salesforce Pro Suite12,000円
Sales Cloud Enterprise21,000円

ここで面白いのは、Twentyに無い見積・売上予測は、Salesforceでも3,000円のStarter Suiteには含まれていないことです。これらが使えるのはPro Suite(12,000円)以上で、公式料金ページの機能表でも「見積作成および管理」「売上予測管理」はStarterで非対応と明記されています。

なお、Salesforceには2ユーザーまで無料のFree Suiteもあります。個人や2人チームが初めてCRMを使うなら有力な比較対象ですが、3人以上ではStarter以上が必要になるため、Twentyとのコスト差が出てきます。

つまり「Starterで我慢している」層にとって、Twentyの機能ギャップは実害が小さいままコストだけ数分の一になります。逆にPro Suite以上を使いこなしている層には、価格差以前に機能が土俵に乗っていません。

乗り換えのボトルネック

実際に移行するとなると、機能表に出ない壁がいくつかあります。

まず移行ツールがありません。公式の案内はCSVインポートかAPIで、ビュー・ワークフロー・権限設定は手動での再構築になります。Salesforceからのフル移行は「パートナーに依頼を」というのが公式回答です。

セルフホストの運用負荷も軽くありません。週次リリースに対してバージョン飛ばしのアップグレードは非対応で、バージョン跨ぎのたびにmigration失敗やログイン不能のissueが立っています(例: #17413#20841)。組み込みのバックアップ機能もまだ要望段階なので、更新前のpg_dumpが事実上必須です。立てるのは簡単でしたが、維持が本番だと感じます。

スケールの実績も未知数です。数万レコード・数百ユーザー規模の公開事例は見つからず、コミュニティの相場観は「50ユーザーまでの技術チーム向け」あたりに収束しています。

日本語対応は途上です。UIの日本語ロケール自体はあり継続的に更新されていますが、リポジトリのja-JP.poを数えると翻訳済みは約65%で、画面の3割は英語が混ざります。国内の導入事例も現時点では見つかりませんでした。

NotionをCRMにしている場合はどうか

Salesforceは高いからと、NotionでCRMを組んでいるチームも多いはずです。公式テンプレートもあり、リレーションで会社・人・商談を紐づけてカンバンでパイプラインを見る、という形は普通に作れます。実際、数人・数百件規模で回っている事例は国内外にあります。

ただし調べていくと、Notionには構造的にできないことが4つありました。1つ目は入力の強制です。必須フィールドやバリデーションが存在しないため(Required指定はフォーム限定)、データの品質は人の規律だけで支えることになります。

2つ目はメールの自動記録です。顧客レコードにメールのやり取りが自動で紐づく仕組みがなく、手動転記は続きません。Notion Mailは2026年9月22日でのシャットダウンが決まりました。Gmail AI Connectorやエージェントのメール機能は残りますが、既存の同期メールデータベースには終了後の新着メールが追加されなくなるため、CRMの顧客レコードへ会話履歴を継続的に自動記録する用途は代替できません。

Notion Mailの終了告知。2026年9月22日にシャットダウン

3つ目はステージ変更の履歴です。商談がいつどのステージを通ったかが残らないため、転換率やファネル分析が原理的にできません。4つ目は権限の粒度で、行レベル権限はBusinessプラン以上限定、フィールド単位の権限はどのプランにも存在せず、監査ログはEnterprise限定です。

この4つはいずれも、TwentyがCRM専用ツールとして仕組みで持っている領域そのものです。「Notionで始めて、チームが数人を超えたあたりで破綻してきた」というチームには、Salesforceに行く前の受け皿としてTwentyがちょうどよくはまります。

どんなチームなら代替できるか

調べた内容をチームの現在地ごとにまとめます。

現在地Twentyへの乗り換え
スプレッドシート / Notionで限界有力。破綻要因を仕組みで解決できる
Salesforce Starterでコストに不満現実的。ただし技術メンバーは欲しい
Pro Suite / Enterpriseを使いこなし中時期尚早。予測・見積・承認のギャップが大きい
監査・認証が必須の企業不適。SOC 2取得完了を待つ

共通する条件は「社内にDockerとPostgreSQLを運用できる技術メンバーがいる」ことです。TwentyのREADMEも対象を明確に「technical teams」と書いており、非エンジニアだけのチームが使いこなす想定のプロダクトではありません。

所感

調べる前は「若いOSSだから機能が足りない」という単純な話を予想していましたが、実際のギャップは偏っていました。記録と管理の基盤は揃っていて、足りないのは予測・見積・承認といったマネジメント層の機能です。そしてその領域は、Salesforce側でも上位プランに切り出されている部分でした。

前回の記事で見たメタデータ駆動のアーキテクチャを踏まえると、この機能ギャップが埋まる速度は既存CRMの感覚より速いはずです。実際、権限管理は2024年時点で「全ユーザーが全データを見える」状態だったのが、1年余りでフィールドレベル権限まで到達しています。

週次リリースで数ヶ月単位に評価が変わるプロダクトなので、「今は無理」で終わりにせず定点観測していく価値があると感じました。ダッシュボードのベータ解除とSOC 2の取得が、次の節目になりそうです。

記事を書いた人

村井 謙太

代表取締役

村井 謙太

Twitter

東京大学在学中にプログラミング学習サービスのProgateを立ち上げ、CTOとしてプロダクト開発に従事。 Progate退任後に株式会社Anycloudを立ち上げ、現在は多数のクライアントの技術支援を行っている。